
はじめに:AIと“対話”するプロンプトとは
AI画像生成に取り組む際、多くの人は「キーワードを並べて指示していれば、いつか思い通りの絵が出てくるはず」と考えがちです。しかし、いくらプロンプトを入れ込んでも、頭の中のビジョンと差が生じることは珍しくありません。本記事で提唱したいのは、**「AIへの指示ではなく、AIとの対話を通じてイメージを共創する」**という視点です。
AIは膨大なデータを学習し、多くの常識を身につけています。たとえば「部屋=窓がある」「暗い場所には光が必要」といった常識です。私たちはそのAIの常識をうまく活かし、余計な情報を省いて必要な要素だけを提示することで、AIに自発的に補完を促すことができます。これが、「AIと共同制作するプロンプト術」です。
逆転の発想—「書かない」でAIが補完する仕組み
従来のプロンプト設計では、大きな影響力をもつキーワードから順序を考えたり、修飾語を次々に足して情報量を増やす方法が主流でした。しかし、情報を足せば足すほど、AIが参照すべきポイントが増えてしまい、結局「何を最優先すべきか」がぼやけてしまいます。これは、絵の具をたくさん混ぜれば混ぜるほど色が濁るのと同じです。
そこで必要なのが、**「AIがすでに持っている常識を逆手にとり、あえて書かない部分を残す」という逆転の発想です。AIは「夜の暗い道に人が立っている」という状況を理解したうえで、「光が当たらなければ見えない→光を足さなければならない」と推論します。私たちはこの推論を利用し、「必要な要素だけを示して、足りない情報はAIに補完してもらう」**ことで、イメージをより正確に生成できます。
実例①:窓のない部屋を作る方法
「窓のない部屋」ではうまくいかない理由
あるとき「窓のない、静かな不気味な部屋」をAIで生成しようと試みました。
The empty room is littered with toys, and the atmosphere is dim,
誰もいない部屋はおもちゃで散らばっていて,雰囲気は薄暗い,
のようにプロンプトを入力したものの、出力されるのは必ず「どこかに窓がある部屋」でした。AIは「部屋=窓がある」という常識を学習しているため、否定形をいくら羅列しても常識を覆せず、窓のある絵を優先してしまうのです。

不要な要素を消すより、“含まれない環境”を提示する
そこで私は、「窓のない部屋」という前提をAIに無理に伝えるのではなく、「最初から窓のない空間」を示すキーワードを使うことにしました。
The basement is empty and littered with toys,
地下室は空っぽで,おもちゃが散らかっている,
「basement(地下室)」には、最初から窓が存在しないという文脈が含まれています。このプロンプトを入力すると、AIは迷うことなく“窓のない暗い地下室”を生成してくれました。
ここで得られた学びは、「AIの常識を打ち破ること」ではなく、「AIに説明しなくていい世界を選ぶ」という発想の切り替えです。

AIに「窓をなくして」と繰り返し伝えるよりも、最初から“窓がない場所”を舞台に選んだ方が早くて自然。地下室という設定に変えたことで、ネガティブプロンプトに頼らず、すっきりとした生成が可能になります。
実例②:雨の夜道で現れる女性を描くコツ
光源を直接指定してもうまくいかない事情
次に挑戦したのは、「雨の夜道を車で走っていると、突然目の前に女性が立ちはだかる不気味なシーン」です。私が最初に試したプロンプトは以下のようなものでした。
A dark road late at night, a photo taken through glass with condensation on it, a person standing in front of me and it being dark so l used a light to take the photo,
夜遅くの暗い道,結露したガラス越しに撮った写真,目の前に立っている人,暗いので光を使って写真を撮影,
しかし結果は「光が背景に浮かんでいるだけ」「女性が逆光のシルエットになって見えない」など、狙った「光に照らされた女性」が再現されませんでした。AIは「light to take the photo」を「光を当てる」として認識するものの、撮影者という概念が無いため「どの位置からどう当てるか」という文脈を補完できず、不自然に逆光のシルエットを描き出してしまったのです。

「白いドレス」を指定してAIが光を足す仕組み
そこで私は、「光源」指定をやめ、「色が見えるためには光が必要」という原則に着目しました。夜の暗い雨道で「白いドレス」をはっきり見せようとすれば、AIは自然と光を配置せざるを得ないはずです。その発想で入力したプロンプトがこちらです。
A crosswalk on a dark road late at night, a horizontal photo through the slightly dewy glass, a woman wearing a white dress standing in the distance with her eyes open in the background,
夜遅くの暗い道路の横断歩道,少し露のようなガラス越しの水平写真,背景に目を開けて遠くに立っている白いドレスを着た女性,
このシンプルな指定によって、AIは「夜の暗い道」「白いドレス」という状況を把握し、「暗闇で色を見せるには光が必要だ」と推論。結果的に、車のヘッドライトのようなライティングを自発的に配置し、女性を浮かび上がらせたのです。この成功体験が、私のプロンプト設計を一変させました。

情報を削ぎ落とす勇気—無駄を省いてAIと共同制作する
キーワードを増やすと“絵が濁る”仕組み
プロンプトに情報をたくさん詰め込むほど、AIは「何を大切にすればいいのか」を判断しづらくなる。絵の具を混ぜすぎると色が濁るように、キーワードや修飾語を次々と加えると、AIは本来狙いたいイメージを鮮明に再現できなくなります。
必要最低限の要素を示してAIに任せる
重要なのは、“必要な要素だけを示し、余白を残す”ことです。AIは自ら補完してくれる特性があります。具体的には、
- 窓を排除するのではなく、地下室という言葉で“窓のない空間”を描く
- 「暗い夜道」×「色」で光の要素は入れない
といった工夫で、AIが持つ常識を引き出し、狙ったイメージを描かせることができます。全ての要素を入れたプロンプトではなく、AIを導く「誘導的プロンプト思考」を取り入れましょう。
まとめ:AIとの共同制作で開く未来
AI画像生成は、もはや単なる“命令して結果を待つ”作業ではなく、AIと“対話”してイメージを共創する時代に入りました。この記事で紹介したポイントは、
- 逆転の発想で「書かないこと」を活かすAIが持つ常識から必要な要素を引き出し、不要な情報を削ぎ落とす。
- 実例①:窓を消すより、最初から“窓がない場所”を選ぶという発想の転換。
- 実例②:雨の夜道で現れる女性を描くコツ「光」指定ではうまくいかず、「白いドレス」を指定するだけでAIが自然に光を当ててくれた体験。
- 情報を削ぎ落とす勇気が共同制作を促す必要最低限のキーワードでAIに示し、補完を任せることで狙ったイメージが鮮明に浮かぶ。
これらを実践することで、あなたの頭の中にあるビジョンを、AIと一緒に、まるで対話するように具体化できるようになります。AI時代を迎え、クリエイティブのスタートは「プロンプトを詰め込む」ではなく、「AIとの共同制作に挑む」ことにあります。ぜひ本記事を参考に、あなたのイメージを自由に描き出してください。
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
AIとの対話を通じて、新しい創造の旅を続けましょう🚣♀️